長唄とは

長唄について

長唄は今から三百年以上前の十八世紀初めごろに歌舞伎の音楽として成立し、主に江戸で発展してきた三味線音楽です。十九世紀に入ると、歌舞伎から独立して純粋に音楽としても作曲・演奏されるようになりました。
歌舞伎の三味線音楽は現在、長唄の他に竹本(義太夫節)、常磐津節、清元節などがありますが、囃子(能管/篠笛・小鼓・大鼓・太鼓)と一緒に舞台で演奏するのは長唄の大きな特徴です。小鼓・大鼓・太鼓は打楽器ですから、それだけリズミカルで踊りに向いているとも言えるでしょう。


現在、歌舞伎における長唄演奏者は、観客に姿を見せて演奏し、舞踊の伴奏を勤める「出囃子」、及び、主に舞台下手の黒御簾(黒い格子に御簾のかかった部屋)で演奏し、芝居の情景や人物の描写などを行う「陰囃子」(黒御簾音楽)を担当します。このうち、出囃子として初演された曲が主に長唄として伝承されてきましたので、出囃子にだけ出演する長唄演奏者も多くいらっしゃいます。

出囃子の場合、唄と三味線は複数が同人数並ぶことが多いので、唄の首席奏者をタテ唄、三味線の首席奏者をタテ三味線と呼び、普通はタテ唄とタテ三味線が中央に並んで呼吸を合わせ、全体をリードします。

唄は、一人で唄う部分と全員で唄うツレの部分があり、声の厚みを変化させて、唄方一人一人の声の魅力や大勢の声の迫力が味わえるようになっています。

三味線について

三味線は、竹本が太棹、常磐津節・清元節が中棹を使うのに対して、長唄は細棹という一番細い棹の三味線を使います。長さはどれも約一メートルと大差ないのですが、長唄に使う細棹は棹が細く、糸も細く、音域も一番高くなっています。
三味線には三本の弦があり、基本的な調弦に「本調子」「二上り」「三下り」の三種類があります。本調子は、一番低い音域を担当する一の糸をシとすると、二の糸は相対音高で完全四度上のミ、三の糸は二の糸の完全五度上で一の糸の一オクターヴ上のシ・になります(シ、ミ、シ・)。二上りは本調子の二の糸を長二度(一全音)上げて♯ファにしたもの(シ、♯ファ、シ・)、三下りは三の糸を長二度(一全音)下げてラにしたもの(シ、ミ、ラ)です。本調子は大薩摩節など浄瑠璃に使うことが多く、二上りは派手な曲調、三下りはしっとりとした味わいを持つとされています。また、西洋の楽器と違い、三味線は曲の途中で調弦を変えることがよくあります。

三味線の「前弾」「合の手」「合方」

唄が入らず三味線だけの部分のうち、曲の最初に演奏されるのを「前弾」、曲の途中に短く演奏されるのを「合の手」、曲の途中に長く演奏されるのを「合方」と呼んでいます。「合の手」と「合方」の区別は明確ではありませんが、合方は何かを表現し、後に名前が付いたものも多く見られます。例えば、《京鹿子娘道成寺》の「鞨鼓の合方」、《越後獅子》の「晒の合方」、《吾妻八景》の「佃の合方」「砧の合方」「楽の合方」、《秋の色種》の「虫の音の合方」「箏手事の合方」、《鶴亀》の「楽の合方」などいろいろな合方が楽しめます。

三味線は異なる旋律を合わせて合奏することもあり、その方法に「替手」「上調子」などがあります。「替手」は本来の旋律「本手」に対して部分的に異なる旋律「替手」を合わせる方法、「上調子」は枷(木の棒)を取り付けて開放弦の長さを短くし、高音域が出やすくなった三味線を使って異なる音を合わせる方法です。

囃子・曲の構成について

囃子はリズムパターンの組み合せでできているものが多く、「オロシ」「サラシ」「早渡り」など名前のついた手法もあります。
曲の構成は、歌舞伎舞踊の基本的な構成要素に従って、「置き」「出端」「クドキ」「踊り地」「チラシ」でできている曲が多いようです。

「置き」は主要登場人物が登場する前に演奏される、全体の主題を表す部分。長唄《五郎》を例に挙げれば、?さるほどに~少将の」が置きになります。

「出端」は主要登場人物が花道などから出て、現在の状況などを説明する部分(《五郎》?雨の降る夜も~大磯や」)。

「クドキ」は主要登場人物のうち主に女性的な心の内を切々と訴える部分(《五郎》?里の諸わけ~春のくせ」。なお、《五郎》はその後、男性的な心情を表現する「物語」?いでオオそれよ~健気なり」の部分があります)。

「踊り地」はリズミカルで華やかに踊る部分(《五郎》?藪の鶯~よしやよし」)。

「チラシ」は曲の最後に賑やかにテンポアップする部分(《五郎》?孝勇無双~賑わしき」)。

このうち「出端」「踊り地」「チラシ」には囃子の入ることが多く、チラシの最後の七五調一句には「段切」(《五郎》?開帳あるぞ賑わしき)、それ以外の構成部分の締め括り(中間終止)には「オトシ」(《五郎》?健気なり?よしやよし」)という、ある程度パターン化された旋律が付くことがあります。

長唄の旋律

竹本・常磐津節など浄瑠璃にはそれぞれに固有の旋律型がいくつもありますが、長唄固有の旋律型はオトシ・段切ぐらいしかありません。ただし、大薩摩節という浄瑠璃が十九世紀になって長唄に吸収されましたので、大薩摩節の旋律型も使っています。また、他の種目、例えば能楽(能・狂言)、地歌、箏曲、浄瑠璃(義太夫節・半太夫節・河東節・一中節・常磐津節・清元節・新内節など)、民謡、流行り歌、巷間芸能や長唄の先行曲を取り入れたり、歌舞伎の陰囃子(黒御簾音楽)の曲を使ったりすることがあり、その使い方にはそれぞれに意味があります。

華やかな特色を持つ長唄

長唄の内容は叙景的なものから抒情的・叙事的なものまで幅が広く、現行曲は七百曲以上あるとも言われています。また、それぞれの曲が歌詞など内容に即した旋律や囃子を取り入れて作曲されています。ただし、長唄の作詞者・作曲者については明記されたものが少なく、はっきりしないものが多いようです。作詞は、歌舞伎の台本を書く狂言作者が行うとされてきましたが、タテ三味線やそれ以外の人間が行うこともありました。作曲はタテ三味線が行うとされてきましたが、それにも例外はあるようです。
長唄には三味線や囃子が活躍する器楽性の高い声楽曲が多く、華やかな特色を持っています。お稽古人口も多く、現在も歌舞伎・舞踊会・演奏会などで盛んに演奏されています。

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